*これまでのお話
第1話 冒険の始まり https://amaterasu-hikari.jp/_ct/17350427
第2話 髪の力 https://amaterasu-hikari.jp/_ct/17351775
第3話 光のバリア https://amaterasu-hikari.jp/_ct/17385510
第4話 黒い犬と「精神の餌」https://amaterasu-hikari.jp/_ct/17401575
第5話 世界に闇と光を創造する魔法の指はどの指だ!? https://amaterasu-hikari.jp/_ct/17406823
第6話 不思議な「木の古いくし」をゲットした! https://amaterasu-hikari.jp/_ct/17421986
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空中ブランコでお空の上へ

黒い犬が消えた、石造りの祠をよく見ると、天へ伸びる大木と一つになっているのでした。

大きな木の根っこが、祠を抱きしめるようにして、石の中へと入りこんでいます。

大木は上へ上へと、はてしなく延びて、上のほうはかすんでいます。

かみながこちゃんの髪は、その大木に、縄のように絡みついています。はるか上へと伸びて、ところどころがチラチラ輝いていました。

見上げるとクラクラしてきます。

「はあーあ、今度は上に登れってわけ?

これをよじのぼるのなんて絶対ムリ。

絶対ムリだから、と」

かみながこちゃんは、髪の毛の一部をブランコの形にかえて、腰かけました。

そして、深呼吸してから、「巨大なクレーン」を思い浮かべました。

「この木の上のほうに、こういうのがあれば…」

そう、クレーンでブランコを持ち上げればいいのです。

「仕組みはよくわからないけど、これで大丈夫でしょ…うわっ」

ブランコはものすごいスピードで上昇しはじめます。

「うええっ。はきそう」

おなかのなかがフワッとなって、気持ち悪くなりました。

かみながこちゃんが必死にブランコにしがみついている間にも、ブランコは猛スピードで登って、雲の層をいくつも突き抜けます。

はるか下の海に、波の白い模様が見えます。

あの島はもう、米粒くらいの大きさです。

かみがかこちゃんはブランコの鎖の部分にしがみつきながら考えました。

「あの黒い犬…。燃えながら、名前を取り戻したいって言ってた。

どういうことなんだろう。名前を忘れちゃったのかな。

名前をなくす、なんてことがあるんだろうか。

柱がなくなったからだとか、言っていたけれど。

私は、今かみながこちゃんだけど、もともとは、しずくっていう名前がある。

忘れるわけないよね?

そういえば、名前がどうとか、あの大きな龍もなにか言っていた気がするけど…。なんだっけ?」

そうしている間にも、ブランコは猛スピードで登ります。

かみながこちゃんは、ブランコにしがみついて座っているのが、ちょっとくたびれてきました。

そこで今度は、自分の髪の毛を、大きなゆりかご型の部屋に変えることにしました。

「ふーっ。ちょっと落ち着くわね。というか・・・。眠くなってきた」

はらばいになって、縮こまっていた手足をグッと伸ばすと、とてもいい気持ちです。 

はるかかなたに、水平線がかすんでいます。

ゆりかご部屋は、ゆらり、ゆらり、風に吹かれてゆられています。

「ぐっすり眠れる人生を送ること。
それ以上に大切なことって、人生にあまりない」

目を覚ますと、辺り一面がもやに囲まれて真っ白です。

どのくらい眠ったのでしょうか。

深く深く眠ったので、とてもすっきりしました。

「うーん。気持ちよかった。眠いときは眠っちゃうにかぎるわよね。

眠いときはすぐ眠るのが大吉! 

これは私の人生訓だもんね」

以前から、昼寝が大好きで、授業中にもときどき居眠りをしていたのですが、これには理由があります。

パパがある日、食卓でこんなことを言ったことが、ものすごくピンときたからです。

〜〜〜

「あのな、みんな。ちょっといいかい。

食べながらでいいから聞いて。大切な話。

これから君たちには長い人生が待っている」

「んっ?」とお姉ちゃん。

「人生、眠りたいときには、すぐ眠るようにしなさい。

眠たいときはすぐ寝るのが大吉なんだ。

なぜなら、体の細胞や免疫力は、寝ている間に修復されることがわかっているんだ。

寝不足の人は、カゼやインフルエンザに何倍もかかりやすくて、しかも、治りにくいっていうデータがあるくらいでね。

脳細胞の疲労も、眠っている間に回復するんだ。寝る子は頭がよくなる」

「そうかあ、それでパパ、よく居眠りしてるんだね」

「しずくちゃんがまた間に受けちゃうから、そういうトンデモ情報やめてよ」

「わたし? なんでよ。でも眠るのは好きだあ」

「トンデモ情報なもんか。ほんとに大切なんだぞ。

特に子供の心と体は、寝ている間に成長するからね。

夜更かしもほどほどにするのが賢いのだ」

「けっきょく言いたいのはそれかよ」

「まあね。大事なことだからな」

「じゃあわたしは毎晩よく寝てるから心配いらないね。昼寝も好きだし」

「そうそう。いいと思う。それからね。

これは大人になればわかることだけど、ぐっすり眠れる人生を送ることが大切。

ぐっすり眠れる人生を送れるような自分でいること。

それ以上に大切なことって、人生にあまりないものなんだ」

「おおげさだなあ」

「ほんとだよ。パパの遺言にしてもいいくらいだ」

「またまたあ!」

〜〜〜

あのしばらくあとに、パパはいなくなったんだっけ。

パパは、いま、毎晩、ぐっすり眠れているんだろうか。

「ん? 誰か、私のこと呼んだ?」

かみながこちゃんは、大きく伸びをすると、ゆりかご部屋をほどいてブランコ型に組み直し、今一度、上り始めました。

するするするする。

髪のブランコはすべるように上っていきます。

すると、はるかかなたの上の方に、この途方もない大樹のてっぺんが見えてきました。

何層も重なった雲の上に、緑の葉があおあおと、天井のように茂っています。

緑の葉の合間には、むくむくと白い雲があります。

かみながこちゃんは、なぜか見覚えがある気がして、ドキッとしました。

ブランコはますます速く上り、緑の天井は、みるみる近づいてきました。

大木に沿って、緑の天井の一部にぽかりと穴が開いています。

その穴をくぐりぬけると、目の前に、かみながこちゃんの髪で作られた巨大なクレーンが、どっしりと立っていました。

クレーンをパラパラほどくと、見晴らしがよくなります。

見渡すと、ずっと向こうまで地面が広がっています。かすみのかかった地平線のほうには、山のようなものが見えます。

振り返ると、なだらかな斜面がずっと続いていて、大きな川まで流れていました。

はるか向こうに輝いているのは、海でしょうか。

「あーあ。ついに、こんなところまで来ちゃった」

見回すと、赤やオレンジ、黄色、白、色とりどりの花がそこかしこに咲いています。

「いい景色だね。まるで天国みたい。さて、どうしようかな」

すると、かみながこちゃんは、自分の髪の一すじがキラッと光って、山の方向へと続いているのに気づきました。

日差しを受けた髪の道は、金色にきらきら輝いています。

「ああ、そっちに行けばいいのね。ふう」

かみながこちゃんは奥歯を強くかみしめて、小川に沿って、山の方向へと歩き始めました。

〜〜〜

ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ…。

清潔な白い部屋の中で、電子機器の音が小さく響いています。

その音と同じ一定のリズムで、心臓の活動を示す心電図が、画面に一定の波形を描いています。

この音、この波形がある限り、この病室のベッドに横たわっている女の子は、命の時間を刻み続けているのでした。

腕には、点滴の針が刺さっています。

ポタ、ポタ、ポタと点滴の液体が一粒、一粒と落ちて、細いチューブを通じて、体内へ栄養液が送り込まれているのでした。

主治医が口を開きます。

「お嬢さんは、ショック状態から脱して、今日で一週間たちました。

アレルギー性のアナフィラキシー・ショックは、直後が最も危険です。

今は落ち着いた状態です。心配はいらないでしょう。

ただ…、お嬢さんが、なぜ目覚めないのかが、わからないのです。

検査数値は異常のないレベルなんですが」

力なく腰かけ、背中を丸めている母親の手を、長女がギュッと握りました。

主治医は申し訳なさそうに、二人を見ていましたが、やがて言いました。

「ひとまず様子を見ましょう。

看護師もついていますし、24時間体制の高度医療施設ですから、ご安心ください。

面会時間の間に、なにかあったら、ナースコールを押してください」

医師と看護師が立ち去ると、眼鏡の若い女性が口を開きました。

「ママ、だいじょうぶだよ。あんまり心配しないで。

今にも起き上がりそうに見えるじゃない」

確かに、横たわっている女の子は、目は閉じていますが、ほおはピンクで、唇は赤く、いかにも元気そうです。

「それはそうだけど…。なんでこんなことになっちゃったんだろう」

「うん。こんなに強い反応が出るなんてね。食べ物のアレルギーの数値なんかは、だいぶよくなってたのに」

「そうね…」

ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ…。

二人とも黙り込むと、電子音がやけに大きく響きます。

「あ、見て。ちょっと笑ってるように見えない?」

「そうかなあ。それより、なんだか、かなり髪が伸びてる気がする」

「あ、ほんとうね」

「そうだ。前になにかで読んだことがある。昏睡状態の人は、名前を呼ぶと、なぜか、回復が早まることがあるんだって」

母親と姉は、横たわっている女の子の髪をやさしくなでながら、名前を呼びました。

〜〜〜

小川に沿って、鼻歌を歌いながら歩いていた、かみながこちゃんは、ふと、振り返りました。

「ん? 誰か、私のこと呼んだ?」

振り返っても誰もいません。

「そんなわけないか」

(第8話に続く)

画像: 「ん? 誰か、私のこと呼んだ?」

西田普(にしだあまね)
1972年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。作家、「アマテラス!」編集長。(株)光出版 代表取締役。月刊『ゆほびか』編集長を務めるとともに、 季刊誌『ゆほびかGOLD幸せなお金持ちになる本』を創刊し、編集長を兼務(〜2019年9月、ともにマキノ出版)。書籍ムックの企画編集も手がけ、累計部数は300万部を突破。健康・開運をテーマしたブログがアメーバ人気ブログランキング「自己啓発ジャンル」で1位を獲得。現在、アメーバオフィシャルブログ・プロフェッショナル部門、月間のアクセス数は315万を記録。物語創作がライフワークで、第1作の「あなたがお空の上で決めてきたこと」(永岡書店)が好評を博している。ブログ「自然に還れば、健康になるでしょう」https://ameblo.jp/toru-nishida/

*この物語はフィクションです。実在の人物、団体、出来事とは一切関係がありません。

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