*これまでのお話
第1話 冒険の始まり https://amaterasu-hikari.jp/_ct/17350427
第2話 髪の力 https://amaterasu-hikari.jp/_ct/17351775
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髪の毛自転車で突っ走れ!
かみながこちゃんは、砂浜の上に流れている、自分の「髪の道」を踏みしめて歩きました。
キュッキュッと、砂がこすれて音を立てます。
波打ち際まで来ました。
波が泡立ちながら、静かに、寄せては返します。
かみながこちゃんの髪は、海の上に浮かんで、ゆらりゆらりと揺れています。
目を細めて遠くをみると、髪はたえまなく揺れながら、かなたの沖のほうへと渡っているのでした。
それを眺めるうちに、かみながこちゃんは胸がパッと開いたような、さわやかな気持ちになりました。
「行ってみようかな。私の選んだ道だから。
それにしても、ここから先、海の上は、どうやって行こうかな。
歩くのなんて無理そうだし、
また、髪の毛で滑り台を作ってもいいけど、
お尻がこすれるし、ちょっと、あきちゃったなあ。
・・・そうだ!」
今度は、髪の毛で自転車を作ってみました。
かみながこちゃんが心の中でイメージするだけで、ぱっと、つやつやに黒光りする「自転車のようなもの」が出来上がります。
「うーん、この髪の毛って、なんでも作れちゃうの? 便利だね。
細かいところなんて、勝手にできちゃってさ」
実を言うと、かみながこちゃんは、自転車に上手に乗れたことがありません。
乗り回したいのはやまやまだけれど、ずいぶん前に転んで、自転車から放り出されたことがありました。
それ以来、ちょっと怖さがあるのです。
上のお兄ちゃんは、「無理して乗ることないぞ。かえって、交通事故の心配がなくていいじゃないか」と優しいことを言ってくれたと思ったら、
下のお兄ちゃんが「お前、どんくさいしな」とニヤニヤ。
パパは「事故なんかあうもんか。練習だ、練習しなさい。それでパパと一緒に自転車でどっか行こう」なんて真顔で言っていました。
・・・そういえば、パパはいなくなる直前まで、「これからは自転車の時代が来るぞ! 自転車に乗って、どこまでもいけるようになりなさい」なんて言ってたなあ。
パパはいまごろどこにいるんだろう。
ともかく、私はこれで、自転車に乗るって夢を叶えられるってことね!
この髪の毛自転車なら、転びそうになったら、髪の毛で支えればいいんだから。
「さあ、いくよぉー」とつぶやくと、早速またがって、ペダルをこぎ始めました。
もちろん、こぐのも、自分の足でではなく、髪の毛でこぐのです。
かみながこちゃんは、龍に教わった深呼吸を繰り返し、心を集中させると、思いっきりペダルを踏み込みました。
すると、 ぎゃんぎゃんぎゃん! と車輪が回り、いきなり突風のように走り始めます。
「うわっ・・・」
振り落とされないように、ぎゅっとハンドルを握って、サドルの後ろに背もたれも作りました。
背もたれに背中を預けて、ゆったりした気持ちになると、かみながこちゃんはますますスピードをあげました。
なにしろ、注意してくる大人もいませんし、車も走っていないのです。
しだいに、「しゅうーっ」と空気を切り裂くような音が聞こえてきました。
「ひゃあー!」
突然の大嵐
気がついたら、あたりはもう一面、海だけです。
深い青色の海。
ときどき、向こうのほうで、波のてっぺんが白く泡立ちます。
風で海水が吹き上げられて、顔や体にしぶきが飛び散ってきます。
猛烈な勢いで突っ走る自転車にまたがって、かみながこちゃんは、二の腕で、顔をギュッギュッとこすりました。
そのとき前方に、むくむく湧き上がる黒雲が見えてきたかと思うと、突っ走る自転車は、あっという間に雲の下に入りました。
猛烈な突風が、横からドッとふきつけてきます。
かみながこちゃんはバランスを崩しそうになりました。
「うわっ、転んじゃう」
おなかに力をこめて、なんとか持ち直しましたが、波しぶきがドバドバかかってきます。
そのときふと
「髪の毛自転車がバラバラに分解しちゃったらどうしよう」
と、不安がヘビの鎌首のように持ち上がってきたのです。
すると、いままで快調だった髪の毛自転車が、とたんに、アヤシイ感じになってきました。
ネジが緩んだように、あちこちがガタピシいい始めて、ハンドルがグニャグニャ頼りないのです。
「やばい!」
かみながこちゃんは速度をゆるめましたが、がくんがくんと今にも分解しそうです。
かみながこちゃんは慌てて、自転車を止めました。
その瞬間、ぽつりぽつりと、雨が降り始めて、一瞬後には、バケツをひっくり返したような土砂降りになりました。
「ひえっ!ど、どうなるの」
突然、あの大きな龍の姿が思い浮かびました。龍の全身が静かに光っています。
「そうだ! あれ、やってみよう!」
かみながこちゃんは、龍が教えてくれた「光のバリア」を試してみることにしたのです。
龍が教えてくれた「光のバリア」
龍は、楽しそうに、こんなことを教えてくれました。
〜〜〜
「もしこの旅をしていてね。恐怖心がわいてきたら、そのときは、今から教える光のバリアを試してみるといいよ」
「恐怖心ってなによ?光のバリアって?」
「旅の途中で、怖くなることがあったらね。
例えば、周りが全く見えない暗闇の洞窟を手探りで歩くとか、断崖絶壁の崖っぷちで岩にしがみつくとか。
それとか、そうだな、幽霊屋敷とか、大洪水とか大噴火。怖いよ〜!って、きっとなっちゃうんじゃないかな」
「・・・そんなところ行きたくない。やっぱり私、行くのやめようかな」
「まあ、まあ。例えばの話だよ。極端な例のほうがわかりやすいだろうと思ってね。
怖くなるとね、生命力、運力が下がる。そして君の場合は、髪の力が、極端に弱まることがあるんだ。
そういうときは、今から言う方法を試すこと。
きみはいつでも、光のバリアを張って、自分を守ることができるんだ。
いいかい。
やりかたは簡単で、まず、言葉を思い浮かべる」
「言葉? どんな?」
「ありがとう、ありがとう、ありがとう、と繰り返す。
そして顔はにっこりさせる。
ほほえみを絶やさない」
「え・・・それって変な人・・・」
「そう思うかい。効果抜群なんだよ。
心の中で、ありがとう、ありがとう、ありがとうと繰り返す。そしてほほえむんだ」
と、龍は、静かにほほえんでいます。
「それで、そのままね。
自分の胸の中心から『巨大な光のオーラ』が周りに放射されているところを思い浮かべるんだよ。
オーラってわかるかな?」
「わかるよ、体の周りに出るやつでしょ。えーっと、ドラゴンボールでさ、悟空の周りに、シュバーッて出てるやつでしょ」
「そうそう。あれは、本当は誰でも出すことができる。というか、すでに出ているんだけど、よりパワーを強化できるんだ」
「ふぅーん・・・」
「わかりやすくいうとだね。
絶好調のアイドルとか、スターとか、スポーツ選手は、光輝いて見えるだろう。
それからね、聖者の皆さん」
「セイジャ??」
「宗教的な絵画で、背中から光が出てるよね。仏像なんかもそうだね。
あれは後光とか、光背(こうはい)なんていうんだけど、聖なるオーラなんだ」
「話はなんとなくわかるけどさ。
それって、その人たちが本当にステキな人だからじゃないの。
セイジャの皆さんだって、オーラを出そうと思ってやってるわけじゃないでしょ。
ただ、出ちゃってるっていうかさ」
龍はかみながこちゃんの顔を見て、奇妙な表情をしたかと思うと、言いました。
「なかなか鋭いこと言うねえ。まったくそのとおりなんだが、今、地球は特殊な時代に入っているんだよ。
みんな、一気に、霊性が高まっているからね。誰でも、自分の好きなようにオーラを強化できるんだ。
特に、かみながこちゃんは、いま、本来の姿になっているからね」
「そんなものなのー?」
「では、理屈はともかく、役立つから、やってみようか。
オーラを出すには、自分の内側の、胸の真ん中から光を出すイメージをもつ。
そのとき、心の中で、ありがとう、ありがとう、ありがとうと繰り返す。そしてほほえむんだ」
「うーん、こうかな?」
かみながこちゃんの周囲が薄く明るくなっていきます。
「そうそう。最初からできるなんて、すごいじゃないか!
光の色は、自分の好きな色の光で構わないんだけど、白光のオーラが最強。
ホワイトゴールドっぽい白い光だよ。
太陽の光を思い浮かべるとやりやすいだろう」
かみながこちゃんは夏休みのお日様を思い浮かべてみました。
するとなぜか愉快な気持ちになってきました。
しゅばばばばばば!
強烈に輝く光のオーラが出はじめます。
「うわっ、そうそう、その調子・・・その調子。
もうひっこめていいよ。ふう」
「なんか楽しくなったよ!おもしろいね、これ」
「そうだろう。そのはずさ。
自分の内側から外側に光を出すと、自然に気持ちが明るくなるんだよ。
これは、人類の古い伝統の中に伝わっていることでもあり、宇宙の秘密にちょっと触れているんだ。
それからね、頭をフル回転で使わなきゃいけない時は、透き通った青いオーラ。
元気を出したい時はオレンジ色のオーラ。
人と仲良くしたい時はピンクのオーラ。
よくないエネルギーから自分の身を守りたい時は透き通った紫のオーラ」
「えーっ。覚え切れないよー」
「君は、おしょうゆや、お砂糖や、塩の、それぞれの特徴や、使い方は知っているだろう?」
「そりゃ、知ってるよ」
「光のバリアも、同じようなものだから、しっかり覚えておきなさい。
必ず役に立つから。
まあ、最初に説明した太陽の光のオーラだけでも、用は足りるかな」
「最初からそう言ってよね。私めんどくさいの嫌い」
龍はにこにこ笑いました。
「覚えておいて損はないよ。
後からちゃんと思い出せるようにしておいてあげるからね。
体の活力を高めたい時は赤いオーラ。
平和な心に戻りたいとき、怪我をしちゃった時は、緑色のオーラ。
自分が乗っている乗り物、例えば車とか飛行機とかも、自分のオーラで包むと、守られて安定する。
ほかにも、居場所、例えば部屋とか、家も、光で包むことができる。強力なバリアになって、守られるからね」
〜〜〜
かみながこちゃんは龍の言葉を、口調もそのままに、一瞬で思い出しました。
そして、荒れ狂う雨と風の中で、かみながこちゃんは太陽のオーラを発動しました。
すると、自分の周りが薄明かりのように明るくなって、不思議と、さっきまでの怖さが消えていきました。
「ふうーっ! あのときみたいに、強く光が出るまではいかないけど、これなら大丈夫そうね」
試しに自転車を走らせると、元のように安定して走り始めることができました。
かみながこちゃんが光のバリアを出し続けるうちに、髪の毛自転車もうっすら光始めます。
しだいに「髪の道」も、ボーッと光り始めて、光の道のようになって、かなたの先へ浮かび上がりました。
「あらっ。このバリア、いいわね。龍のやつ、今度あったらお礼言わなきゃ」
どれくらい走ったか、自分でも分からなくなる頃、空が薄紫色に変わってきました。
夜が明けるのです。
ずっと向こうに、海と空をつなぐ1本の糸のようなものが見えてきました。
「なんだろ?」
髪の毛自転車で近づくうちに、天に伸びているものの正体がわかりました。
糸のように見えたものは、高い高い木だったのです。
木があまりに高いので、遠くから見ると、糸のように見えたわけです。
上のほうは、雲の中に消えています。
「ジャックと豆の木みたいだね!?」
その木は、海に浮かんだ小さな島から、空へ向かってズドーンと生えているのでした。
(第三話、終わり。第四話に続く)
西田普(にしだあまね)
1972年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。作家、「アマテラス!」編集長。(株)光出版 代表取締役。月刊『ゆほびか』編集長を務めるとともに、 季刊誌『ゆほびかGOLD幸せなお金持ちになる本』を創刊し、編集長を兼務(〜2019年9月、ともにマキノ出版)。書籍ムックの企画編集も手がけ、累計部数は300万部を突破。健康・開運をテーマしたブログがアメーバ人気ブログランキング「自己啓発ジャンル」で1位を獲得。現在、アメーバオフィシャルブログ・プロフェッショナル部門、月間のアクセス数は315万を記録。物語創作がライフワークで、第1作の「あなたがお空の上で決めてきたこと」(永岡書店)が好評を博している。ブログ「自然に還れば、健康になるでしょう」https://ameblo.jp/toru-nishida/
*この物語はフィクションです。実在の人物、団体、出来事とは一切関係がありません。