*これまでのお話
第1話 冒険の始まり https://amaterasu-hikari.jp/_ct/17350427
第2話 髪の力 https://amaterasu-hikari.jp/_ct/17351775
第3話 光のバリア https://amaterasu-hikari.jp/_ct/17385510
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親鳥は、小鳥に「ぐちゃぐちゃにかんだ餌」を与える。
じゃあ、人間の親は・・・?

島に上陸すると、かみながこちゃんは、「髪の毛自転車」をたたんで、あたりを見回しました。

もう夜がすっかり明けて、まぶしい太陽があたりを照らしています。

木々がいやにくっきりと浮かび上がるように見えました。

 
木かげから、黒い犬がしっぽを振りながらやってきました。

全身が黒いふさふさした毛に覆われていますが、耳の先っちょが茶色くて、足と尻尾は白くなっています。

ほおひげが生えたような顔をしていて、じっとこちらをみています。

「あら、わんこだ。かわいいね。おいでおいで」

目のうえに、まるで眉毛のように、毛が白い部分があって、それが八の字になっています。

なんとなくお人好しに見えるなあ、とかみながこちゃんは思いました。

かみながこちゃんをじっと見ていた黒い犬は、口を開いて「よく来たね。待ってたお」と言いました。

「しゃべったぁ!?」

黒い犬はぴょんぴょん、うれしそうにぐるぐるその場で回ったかと思うと、そっぽを向いて、あさっての方向へ行ってしまいました。

「あら? ちょ、ちょっと待ってよ! あなた、待っていたって、どういうこと?」と黒い犬についていきます。

小さな島の海岸線は、ずっと砂浜が続いていました。犬は軽快に砂浜沿いを歩いていきます。

「ちょ、待ってよ。わたしを待っていたんでしょ?」

波打ち際には、ところどころにキノコのような形の大岩が立っています。

小さな島で、真ん中は小高い山になっています。

犬を追いかけて海岸線を歩いていると、すぐに島の反対側につきました。

すると、そこには、誰かが作った階段がありました。

階段は、島の真ん中の山の上のほうに続いています。

そして、階段の下のほうはといえば、海の中に通じているのでした。

海の中をのぞき込むと、どこまで深いのか見当もつかない、光の届かない奥底まで、階段は降りています。

息が止まるような心持ちがしました。

「どうなってんの? この階段って。誰か、海の中に降りていくんだろうか。それとも、誰かが海から上がってくるのかな…」

考えていると背中がゾクッとして、かみながこちゃんは目をそらしました。

振り返って、今度は階段の上のほうをみてみると、島の中央の、こんもりとした山の頂上のほうへと延びています。

島の頂上からは、あの大木が、目もくらむような明るい空へと、一直線に伸びているのでした。

まるで空を支えている柱のように、木はまっすぐ上に伸びて、上の方は目を凝らしても見えません。

ふいに、足元に生暖かい空気を感じて見てみると、黒い犬が、かみながこちゃんのふくらはぎのあたりのにおいをかいでいました。

「う、うわあ!びっくりした!」

黒い犬はまた、かみながこちゃんの顔をじっと見ています。

しばらく鼻をクンクン鳴らしていたかと思うと、独り言のようにしゃべりはじめました。

「女の子、この分岐点まで、よくきたんだお。大きな川を渡ってきたんだお。それはなかなか大変だったんだお。自分で選んだこととはいえ。お役割とはいえ。よくきたんだお」 

「えっ!?」

「苦々しい気持ちもあるんだお。その気持ちわかるお〜」

「あなた、それ、わたしのこと言ってるの?」

「腹立つ時もあるんだお。わかるおー。

よぉーし。じゃあ、案内するから」

「なによ、どういうことなの」

黒い犬は、ちゃかちゃか音を立てて歩き始めました。どうやら、島の頂上の方へ向かっているようです。

かみながこちゃんは慌ててその後についていきます。

よく見ると、かみながこちゃんの「道案内の髪」も、島の頂上のほうに小さなひとすじが流れているのでした。

「待ってよー。あなたってなんなのよ」

黒い犬は歩きながら答えます。

「僕はね、道案内人みたいなものなんだお。

みんなが、この場所に来るじゃない。

そしたら、その人を、僕がよーく見るじゃない。ニオイもかいでさ。

そしたら、いろんなことがわかるんだお。

場合によっては一丁目から、三丁目まで連れてくって感じ。

で、その人に何かメッセージがあったら、その子に伝えるってわけだお。

名前なんて言う?」

「えっ、わたし? かみながこちゃんだよ」

「そうかあ。あのな、かみながこちゃん、きょうだい、いるか」と犬は振り返って聞きます。

「いるわよ。なんで聞くのよ」

「こないだそっくりな奴が来たんだお!・・・でもちょっと印象が違うんだお。まぁいいや」

「なにが、まぁいいやなのよ」

「こっちこっち」と言って、またちゃかちゃか歩きます。

突然「ううー!」とうなったかと思うと、犬がまた振り返りました。

そして、

「えーとメッセージ、メッセージ。もうちょっと待ってぇ。

・・・じゃあ今から伝えるんだお」

かみながこちゃんが見ていると、黒い犬はブルブルっと体を震わせて「がうう」とうなってから、キリッとした顔つきで話し始めました。

「親鳥は、小鳥にぐちゃぐちゃにかんだ餌を与える。

小鳥たちは、口を大きく開いてそれを食べる。

かみながこちゃん、親から、ぐちゃぐちゃにかんだ餌をもらって、口を大きく開いて、食べたことあるか?」

「えっ、なに? 餌って? 食べ物のこと?」

かみながこちゃんは、パパやママが、自分たちがぐちゃぐちゃにかんだハンバーグをアーンしてくれるところを思い浮かべて、思わず吐きそうになりました。

「絶対に食べないよ。わたし鳥じゃない、人間だよ。そんな食べ物、パパやママがくれるわけないし。もらうわけないじゃん!」

「本当にそうかな?

鳥の場合は、ぐちゃぐちゃにかんだ餌なんだ。

ぐちゃぐちゃにかんだ餌じゃないと小鳥は飲み込めない。

ぐちゃぐちゃじゃないと、小鳥の体が成長する糧になりにくい」

「知ってますよ。図鑑で見たもんね」

「人の場合は、必要なのは体の餌だけじゃない。精神の餌が必要なんだおーっ」

「・・・何が言いたいのよ」

「人間の精神の餌は、いろんなものが、ぐちゃっと混ざってるんだお」

「人の場合は、精神の餌を、親がぐちゃぐちゃに噛んで与えることがあるんだお。

それは、めちゃめちゃぐちゃぐちゃで、まずいこともあるんだお。

親が与えてくれる心の栄養って、なんなんだ?」

「・・・」

「普通は、安心感や、ぬくもりや、励まし。それに、いつでも守ってくれてる感覚。そんなのが多いんだお。

だけど・・・その逆にしか見えない餌もあるんだおーっ」

「・・・」

「なにしろ、人間の精神の餌は、いろんなものが、ぐちゃっと混ざってる。

ひどく混ざってるんだおーっ!

でも、それもこれも、親鳥が小鳥たちのために、ぐちゃぐちゃにかんだ餌と、そんなに変わらない。

このたとえ話、わかった? 

かみながこちゃん。

ここから先に進む、天へのかけ橋を渡るには、一つには、両親を完全にゆるす必要があるんだお。

かみながこちゃんはそれを、もうほとんど済ませている。

だから、ここまでスムーズに来られたんだお。

そういう《におい》がしたけど、ここからもうワンステップ先に進むには、今伝えたメッセージを、飲み込む必要があるんだお。

ふう。こここまでがメッセージね。あーすっきりした。以上です」

「なんのこと? あんた、何、言ってるの。以上です、じゃないわよ」

・・・パパがいなくなったこと、ママが病気なこと、それも「ぐちゃぐちゃにかんだ餌」だって言いたいわけ?

かみながこちゃんは猛烈に腹が立ってきて、髪の毛がわさわさと動きだしました。

「あんたに何がわかる! 知ったような口を聞くんじゃないわよ! 私は、パパやママのこと、許してなんかいないんだから!」

かみながこちゃんは、パパとママが「みんなでディズニーシーに行こうね」と言ってくれて、結局行っていないことや、「あそこのキャンプ場にもう一回行こう、温泉もプールもあるから」と言ってくれて、結局連れて行ってもらえないままになっていること、そのほかにも、守られなかった数々の約束を、次々と思い出しました。

うそつき!うそつき!

この犬のやつ、それもこれも「ぐちゃぐちゃに噛んだ餌」だって言いたいの? そんなわけないだろ!

腹が立つのと、つらく悲しいのとで、かみながこちゃんは、胸の中がどーんと空洞になったような気がしました。

「あんたに何がわかるのよ。知ったかしないで! 大体あんた何者なの。名を名乗れ!」と叫んだのでした。

すると犬は突然、

「け、け、け、け」と奇妙な声を上げたかと思うと、ふりしぼるようにこたえました。

見ると、黒々としていた犬の瞳のぜんぶが、血のように真っ赤に染まっています。

「ぐあー…ぐぐぐ。名前…名乗りたいのはやまやまだけど…ダメなんだぉ〜! 

その質問には、こたえることができないんだおー!」

「ちょ、あなた、どうしたの?」

「柱がなくなったから。ほんとの名前をなくしちゃったからだお…。

それを、いつか、いつか、取り戻したいんだおー」

かみながこちゃんがあっけにとられていると、犬の赤い目が火を吹いて燃え出し、次に足が燃え出し、みるみるうちに全身が燃え上がって、ついに燃えさかる火のかたまりになってしまいました。

「えっ!えっ?」

「あぐーっ。がーっ」と言いながら、燃える犬はそのまま、ぶるぶる震えています。

(第四話終わり。第五話へ続く)

西田普(にしだあまね)
1972年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。作家、「アマテラス!」編集長。(株)光出版 代表取締役。月刊『ゆほびか』編集長を務めるとともに、 季刊誌『ゆほびかGOLD幸せなお金持ちになる本』を創刊し、編集長を兼務(〜2019年9月、ともにマキノ出版)。書籍ムックの企画編集も手がけ、累計部数は300万部を突破。健康・開運をテーマしたブログがアメーバ人気ブログランキング「自己啓発ジャンル」で1位を獲得。現在、アメーバオフィシャルブログ・プロフェッショナル部門、月間のアクセス数は315万を記録。物語創作がライフワークで、第1作の「あなたがお空の上で決めてきたこと」(永岡書店)が好評を博している。ブログ「自然に還れば、健康になるでしょう」https://ameblo.jp/toru-nishida/

*この物語はフィクションです。実在の人物、団体、出来事とは一切関係がありません。